10 寒椿

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 と、それまでアヤメを見つめていたツバキの視線が、ゆっくり直久に移動する。 (────!!)  直久の全身を、悪寒が走り抜けていった。この悪寒は、初めてではない。  そう、これは────あの悪霊のっ!! (まさか、そんな! やっぱりツバキちゃんが!?)  恐怖に体中が岩のように動かなくなった直久は、ツバキから目をそらすこともできない。背筋を冷たいものが走っていく。  ふっ、とツバキの口元が不適に笑ったように見えた瞬間、ツバキは自分たちに背を向けた。 「私は戻ります。明日の儀式をするのは私よ、アヤメ!」  そう言って、彼女は屋敷へと走り出す。 「え、あっ! ツバキ!!」  慌てて、清次郎が後を追った。  直久も、後を追おうとしたが、小さく振り返るアヤメの手がしっかりと直久の洋服の裾をひっぱっていて、前に進めない。 「い……いかないで」  このまま、ツバキが戻れば。  ツバキが生け贄になり、清次郎が自分のものになる。  そんなアヤメの心が、再び直久の心に流れこんできた。 「……アヤメさん……」  
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