10 寒椿

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 確かに、このままツバキが部屋に戻れば、アヤメは生け贄にならない。でも、それは彼女の命を救ったことになっても、心を救えない。  自分を呼んだ彼女の魂は、命を救って欲しくて助けを求めたのか? (いや、違う。オレを呼んだ、本当の理由は……!)  自分を認めて欲しい。  ツバキはツバキ。  アヤメはアヤメ。  そう言ってほしい、自分が心から信じる人に。  直久がそう思ってきたように。  自分はおまけじゃない。和久の残りカスでもない。  一人の人間として、ちゃんと認めてほしい。大事な人から。 (そんな──孤独を理解して欲しいからオレを呼んだ、違う?)  「ねえ、アヤメさん。君は本当はどうしたいんだ?」 「え……?」  直久はそう語りかけながら、ゆっくりとアヤメに歩み寄り、その肩にそっと手を置いた。 「ツバキちゃんをあの部屋に閉じ込めて、生け贄にさせることが、本当に君のしたいこと?」 「…………」  アヤメは直久が何を言いたいのかわからない、という顔をした。それでも直久はかまわずに続ける。
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