10 寒椿

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  「アヤメさん。やっぱり、俺さ。どんな格好をしていても、君がどんなにうまくツバキちゃんの振りしていても、アヤメさんはアヤメさんでしかないと思う」 「……そんなことない。お父様やお母様は絶対に気がつかないわ」 「オレも双子の弟がいるから、わかるよ。入れ替わって遊んだことは何度もある。でも絶対ばれるんだ。だってね、ツバキちゃんががこの世にツバキちゃん一人しか存在していないように、アヤメさんだって一人しかいないんだから」  アヤメは無言で直久から目をそらした。まだ納得いかなそうだ。 「じゃあさ、逆だったら?」 「逆?」 「もし、何百っていう人がさ、清次郎さんの振りをしていて、それがもう、すっげぇそっくりだったとする。アヤメさんは、清次郎さん捜し出すことができると思う?」 「!」  アヤメは悔しそうに直久を見上げた。直久が何が言いたいのかわかったようだ。 「でしょ? 君なら清次郎さんを見分けられるよね。大切な人だから。大好きな人だから。清次郎さんにとってはそれがツバキちゃんだったんだよ。だから、アヤメさんが、どんなにうまくツバキの振りをこなしていても、清次郎さんにはバレてしまうんだ。ダメなんだよ」 「…………」  
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