10 寒椿

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 直久は思ったことを言っただけなのに、アヤメは、再び、はっとした顔になった。 「そうね……その通りだわ」 「え?」 「やらないで、『やっとけば良かった』ってずっと思っているより、『やってみてダメだった。なら今度はこっちだ』って思ったほうが、次があるわよね」 「そう、そう、そう! さすがアヤメさん! オレが言いたかったのはソレよ」 「まあ、調子いい!」   ふふふ、とアヤメが笑顔になった。  何度か見るアヤメの笑顔とは少し違って、本当にすきりとした青空に浮かぶ暖かな太陽のような笑顔だと直久は思った。 「いい顔」 「え?」 「惜しいなぁ、君がもうちょっと若かったら、オレの女にしたのに」 「まあ、若かったらって同じくらいでしょ?」 「うん、まあ、ざっと君が百五十歳くらい年上かな」 「……ええ!?」  アヤメは目を丸くし、絶句した。そして、すぐに声を上げて笑う。直久もにっこりと微笑んだ。  よかった。その笑顔で、オレも救われた。そんな気がして、直久は胸がほんわり温かくなっていくのを感じた。
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