10 寒椿

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  ◆◇  直久とアヤメが地下部屋に続く階段を早足に降りていくと、薄暗い部屋の中で、ベッドに腰をかけたツバキと彼女を必死に説得する清次郎が見えた。  その様子にさすがの直久も驚いた。清次郎はだいぶ動揺しているようで、オロオロとツバキの前を行ったり来たりしている。  直久も彼をよく知っているわけではないが、つい先程までの彼とはまるで別人に見えた。こうも人はパニックになると、回りが見えなくなるものなのかと、直久は一人しみじみしてしまった。 「アヤメ」  ツバキはしっかりとアヤメを見据えた。そして、直久とも目が合う。その瞬間、あの悪寒が直久を襲う。突然ツバキの目が妖しく赤い光を放ったのだ。 (――――なっ!?)  次第にツバキの背後に何かが見え始める。それは部屋の闇より更に深い闇が霧のようにうごめいている。  呆然とその闇に目を奪われ、恐怖に飲み込まれそうになりそうなのを瀬戸際で耐えていると、不意に不気味な声が直久の耳に飛び込んできた。
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