10 寒椿

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  (くっそう! この呪縛さえ解ければっ!!)   ついに、ツバキが直久の横を通りすぎる瞬間、再びツバキと目があった気がした。  そして────。 (なっ!?)  直久は目を疑った。見間違いだと思いたかった。  だが、確かに見たのだ。  彼女が、にやりと笑ったのを────。  大きな虫が体中を這いずり回るような、ぞくぞくっとした寒気が直久を襲う。  ────オマエモ ココデ 死ヌガイイ  胸が、どくん、どくんと大きく脈打った。  再び直久だけに聞こえた悪霊の声に、恐怖よりもさらに強く、嫌な予感がした。  悪霊は今、なんと言った?   おまえ“も” ここで死ね!? 「行くわよ、直久さん」  続いて直久の横を通過したアヤメは、階段を途中まであがったところで、直久がついてこないのに気がついたらしい。不思議そうな声が聞こえた。  直久の体はピクリとも動かない。それなのに、額から嫌な汗がたらりと垂れていった。 「直久さん?」   危険。   キケン、キケン!  体中が、警報を大音量で鳴らしているというのに!!  この危険をアヤメに伝えるすべがないなんて!!
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