10 寒椿

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   ────パリン  心の中で必死で叫んだ瞬間、まるで鏡でも割れるような、大きな音が直久の頭の中で響いた。ふわりと、体が軽くなったように感じたかと思うと、バランスを失った直久はその場に崩れ落ちた。  (──解けた!!)  間髪いれずに、直久は背後を振り返る。階段の下に横たえる赤い着物が目に入った。 「アヤメさんっ!!」  慌てて駆け寄り、抱き起こす。アヤメがかすかに、うめき声を上げた。  よかった生きてる。  小さく息をついた。 「アヤメさん、しっかりして!」 「大丈夫よ、直久さん……あっ!」  体を起こして、立ち上がろうとしたアヤメは、小さく悲鳴を上げた。  「どうしたっ!?」 「足をひねったみたい……」  なんだ、その程度か。直久は大きな脱力感を味わった。  とりあえず、無事でよかった。本当によかった。  せっかく、いい顔をするようになったのだから。アヤメには少しでも長く笑っていて欲しい。素直に直久はそう思うのだ。
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