10 寒椿

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  「それにしても、どうして階段から落ちたの? なんかもめてたように聞こえたけど」  直久が聞くと、アヤメは顔を曇らせた。 「ツバキに、突き落とされて……鍵も取られたわ」  直久は、自分の頭から、さあっと血が引いていくのがわかった。  悪霊の言葉が意味していたのは、このことだったのではないか? 「閉じ込められた!?」  直久の言葉に、アヤメも顔色を変えた。ひねった足を這うようにして階段を上がり、扉に急ぐアヤメ。両手を掲げ、扉を押し開こうとする。 「開かないっ!! 開かないわっ!!」 「まじかよ……」  アヤメは完全にパニックになっているようだった。このままでは、清次郎がツバキを連れて逃げてしまう。そうなったら、自分が生け贄にされる。そんな恐怖が直久にも流れ込んでくる。  怖い! 怖い!!  静かな闇に支配された部屋。  怖い。  嫌、こんなところにいたくない。    誰か、お願いだから出して! お願いよ!  そんな悲痛な心の叫びが、直久を襲う。苦しい。胸が痛い。心が壊れてしまいそうだ。 「いやあああっ!! ツバキ、ツバキ! 誰か、助けてっ!!」  
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