10 寒椿

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 アヤメは何度も扉を叩いた。何度も、何度も。  直久はそんなアヤメの心に完全に同調していた。  胸が痛くて、息も出来ない。勝手に目頭が熱くなってきた。  死にたくない!  死にたくない!!  ツバキを助けようと思ったのに!!   どうして私が死ななければならないの!  ひどい。こんなのひどい。  嫌だ、ここから出して!!  私は死にたくないーーっ!! 「お願い、出して! ここから出してえええっ!」 「アヤメさん、落ち着いて!!」  直久は、泣き叫ぶアヤメを力いっぱい抱きしめた。だが、パニックになっているアヤメは、余計に苦しそうにもがいて泣き叫ぶ。 「いやあああーーーーっ!!」 「アヤメさんっ!! オレが助けるから!! オレが鍵を持ってくる」  だから、そんなに、心をなくすほど、壊れそうなほど悲しまないで。  さっき、君は笑っていただじゃないか。  オレに葉っぱをかけるほど、誇りに満ちていたじゃないか。  
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