10 寒椿

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  「お願いだ、アヤメさん。オレを信じて……」  ぽつり……。  アヤメの頬に暖かな雫が落ちてきた。涙だ。 「…………なお……ひささん……?」  泣いているの? と驚きに目を見開いたアヤメが直久を見つめ返すと、直久の潤んだ瞳にふわりと包み込まれたような気がした。 「君は、オレが助ける。そう約束したろう……?」  直久は、アヤメの頬を両手で挟むようにして、アヤメの涙をふき取った。 「だから、君は笑って。オレのために」  直久は、そっとアヤメの瞼に口付けした。閉じたアヤメの瞼から、再び、ひと筋の涙がこぼれた。その雫は部屋の薄暗いランプを反射してキラキラと輝いて、床に落ちていった。 「……うん」  弱々しく直久に微笑みかけたアヤメは、どんな高価な宝石よりも美しく感じた。    
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