10 寒椿

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  ◇◆  時刻は深夜2時を回っている。いつの間にか、日付けは、生け贄の儀式が行われる予定の日になっていた。  アカネはベッドの上で、何度目か分からない寝返りを打った。  今日は儀式の日。アカネにとって、もう一人の姉であるツバキが、神に召される日だ。  幼い彼には、一緒に遊んだ記憶のない姉だとは言え、大好きなアヤメと同じ姿をしているツバキの死は、やはり受け入れがたい。 「はぁ……」  アカネから、今夜何度目かのため息がこぼれた。ふと、窓の外を眺めると、雪が音もなく降り注いでいることに気がついた。いつから降っていたのだろう。 「…………?」  その景色の中で、何かうごめくものを見つけ、アカネは目を凝らす。よく見えない。  しかたなく、窓辺に張り付くようにして、もう一度目を凝らす。 「あれは!!」  清次郎と……連れているのは、髪の長い女性……まさか……アヤメ!?  「た、大変だ!! 清次郎お兄ちゃんが、アヤメお姉様を連れて行っちゃう!! お父様っ、お父様ーーっ!!」  アカネは慌てて部屋を駆け出した。
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