10 寒椿

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  ◇◆  直久はツバキの部屋の扉からすり抜けると、ふわふわと落ちてくる粉雪を頬に感じた。なぜか、そこにはもう屋外だった。林道らしい。  何が起きたのかわからず、一瞬放心してしまう。慌てて振り返るが、先ほどまで居たはずのツバキの部屋の扉は、どこにも見当たらない。  あるのは一面の銀世界。  ただひたすらに降り積もる雪。 「ええっ!? ワープしちゃった?」  まさか、用済みになって現代に戻されたなんてことはないだろうか。一瞬期待した直久だったが、遠くに、豆つぶよりも小さく二つの人影が見えて、それがだんだんと誰だかわかってくると、完全にその期待は消え去った。  人影は、深い雪に足をとられながらも、必死に走ってこちらへ向かってくる。いや、こちらへ逃げているのだ。 「…………ツバキちゃん」  ついに目の前に現れた少女を、直久は静かに見据えた。  アヤメそっくりな少女。  だが、アヤメではない少女。  少女はピタリと足を止める。
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