10 寒椿

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 どんなに苦しかっただろう。  誰一人自分の味方はいない。  死んで当たり前、と誰からも思われる人生なんて、直久だったら耐えられない。  そして、肉体が滅んだ今も、こうしてあの地下室に心が囚われたままだとしたら……。  直久は、ぎゅっとを拳を握り締めた。  自分が。  なんとかしてやりたい。  この手で救ってやりたい。  これ以上ツバキが、そしてアヤメが、泣き叫びながら助けを求め続ける姿を見てはいられない。  助けるんだ。  二人を、この手で。  約束したんだ。助けるって。  まっすぐにツバキを見据えた直久の目に、強い光が灯った。 「逃げる必要なんてないんだ。儀式を中止しよう」 「え?」  思いもよらなかったのか、ツバキの顔に小さな戸惑いが見える。 「アヤメさんが言ってたよ。ツバキを助けたい。だから、お父さんを説得して、生け贄をやめさせるんだって。ツバキと一緒に説得するんだって」  
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