10 寒椿

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 直久はじっとツバキの返事を待った。  ツバキは直久の真意を伺おうとしているかのように、こちらを見つめている。  近くの木の枝から、自身の重みに耐えかねた雪が重力にしたがって、どさりと落ちた。 「ふふ……」  ツバキが短く笑った。 「アヤメがそんなこと言うはずないわ。アヤメが望むのは、私が生け贄になること。アヤメは自分が助かることしか考えてないのよ」 「そんなことないっ!」  直久は思わず声を荒げた。が、間髪いれずに、 「あなたに何がわかるのよっ!」 とツバキの悲鳴のような声が返ってきた。 「アヤメが私を助けたい? 笑わせないで。あの子がこの十六年間、私に何をしてきたと思う?」  ツバキの顔が、苦々しくゆがんだ。 「たしかに、毎日、毎日、アヤメは私のところに来たわ。でも、顔を出すわけでも、話し相手になるでもない。ただ、私が生きているかそれを確かめるために。なぜか分かる? 私が死んだら生け贄になるのはアヤメだからよ! 自分が死ぬのが嫌だから、ただそれだけなのよ!!」  
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