10 寒椿

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  「……これ、どうしたの? 誰にもらったの?」 「お父様よ。お父様が、くれたわ。アヤメとツバキだって」 「…………」  なんて事を。  無神経にもほどがある。  よりによって双子の名をつけるなんて、どうしてそんな悪趣味なことができるんだ。  ぎりりと奥歯をかみ締め、直久は思わずツバキから目をそらした。 「ねえ、どうしてツバキは動かないの?」 「ツバキはもう……動かないよ」 「どうして?」  直久は、搾り出すように、言葉をつむいだ。 「死んでしまっているんだ」  静寂があたりを包む。  ツバキの反応がない。おかしいな、どうしたのだろう、と直久が思い始めた時だった。  先ほどまでとは違って、少し落ち着いたツバキの声が返ってきた。
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