10 寒椿

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  「そう。これが死ぬことなのね」  はっと、直久は息を呑んだ。目の前のツバキが、あきらかに成長していたのだ。中学生くらいだろうか。  直久にはわけがわからなかった。先ほどの幼女の時の記憶とは、また別の記憶に飛んだのだろうか。  明らかに動揺の色が濃くなった直久に、ツバキは容赦なく質問を続けた。 「人は死んだらどうなるのかしら。ねえ、私は死んだらどうなるの?」  怖い。  直久はそう思った。  決して、殺されそうになっているわけでも、怒られているわけでもない。  無表情な、人形のように美しいツバキの姿を、怖いと感じた。  動けないでいる直久から、ツバキの方が先に視線をはずす。そして、立ち上がり、右を向いた。その横顔の先を直久は目で追う。ぼんやりと、部屋の入り口が見えた。そうか、ここはあの地下室なのだ、とそこで初めて認識を改める。 「最近、お父様もお母様も、いらしてくれないのよ。きっと死んでしまうからなのね。もうすぐ、この部屋から居なくなるからだわ。でも、だったらどうして人は生まれてくるのかしら。この部屋にずっといるために生まれてくるの? 儀式で死ぬために生まれてくるの?」  寂しげに入り口を見つめるツバキ。
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