10 寒椿

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  「アヤメもそうなのかしら。アヤメも私と同じように、思っているのかしら。寂しい思いはしていないかしら。暗闇で怖がってはいないかしら。アヤメ……私の妹……もう一人の私……」  ツバキは、直久を振り返った。 「ねえ、アヤメに会いたい! ちょっとでいいの。アヤメにあわせて!!」  ツバキに急に詰め寄られ、直久はぎょっとする。しかし、すがりつくように泣き出されれば、やるせない気持ちで、胸が張り裂けそうになる。  どうすることもできない。  どうしてやることもできない。  ツバキを毎日世話していたという、口の聞けない老婆はきっと今の直久のような気持ちになったにちがいない。  肩を震わせて、泣き崩れるツバキ。  直久はいてもたってもいられず、ついに、ツバキを力いっぱい抱きしめた。  なんて言葉をかけていいかわからない。だから、ただ、ただ、抱きしめた。  やっぱり、ツバキは知っていた。  もうずっと、死への恐怖におびえながら、この闇と孤独に耐えながら、長い長い心細い時間を過ごしてきたのだ。  アヤメもきっと自分と同じような境遇にある。そう信じて、心配しながら。
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