10 寒椿

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 どうして、清次郎は彼女を止めなかったんだろう。怖くなかったのだろうか、アヤメを殺す共犯になってしまうことが。大切な人に殺人を犯させてしまうことが。  直久はそう思ったが、すぐに首を振る。止められなかったんだ。きっと、こうなってしまっては、誰であっても止められなかったのだ。 「ねえ、直ちゃん。あなたもそう思うでしょう?」  ────え?  急に名前を呼ばれ、直久は固まる。 「あなたをここに呼んだのは、私よ。あなたを必要としていたのは私。べつに、私に協力してくれるのなら、あなたじゃなくても良かったのだけど、結果的にあなたで正解だったかもしれないわね。ありがとう」  そう笑って、ツバキは直久に背を向けた。  ひんやりと、直久は自分の頬に何か冷たいものが触れた気がした。  雪だ。  いつの間にか闇が消え、代りに銀世界が直久の視界いっぱいに広がっている。
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