10 寒椿

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  「一人ではできないから、だからっ!! アヤメさんはツバキちゃんと一緒にならできるって、一緒に説得しようってっ!!」 「嘘よっ!!」  直久のことが見えていない清次郎は、ツバキが突然叫びだしたので、びくりと体を硬直させる。  それでもかまわず直久は続ける。 「嘘じゃない!! だったら、なんでアヤメさんは戻ってきたと思う!?」  ツバキの顔に小さな動揺が見えた。 「あのまま、アヤメさんが君の部屋にもどらなかったら、君はこうやって逃げることができなかったはずだ。でも、なんでアヤメさんはわざわざ君の部屋に行ったと思う!? そのまま朝まで放っておけば、ツバキちゃんが生け贄になるってわかっているのにっ!!」  あの時、アヤメは戻る必要などなかった。ツバキを助ける気持ちがなければ、生け贄になるために部屋に戻ったツバキを追って、ツバキの部屋を訪れる必要などなかったのだ。  再びツバキを部屋に閉じ込めさえすれば、予定通り儀式はツバキを生け贄として行われるのだから。  それでも、アヤメは行った。 「君を、助けたかったんだ」 「…………うそよ……」  ツバキの視線が、頼りなげに宙をさまよう。
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