10 寒椿

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  「嘘なものか!! あの時、アヤメさんは君に何て言った!? もうここに居る必要などない、そう言っただろう!?」 「でもっ!!」   ツバキは直久をしっかりと見据えた。その瞳にいっぱいの涙を浮かべて。 「生け贄は……アヤメがかわりにやるって……言っていたわ」 「そうでも言わなきゃ、君はあの部屋を出ようとしない、そう思ったんだろう? アヤメさんは、君を自分の部屋に匿うつもりだったんだよ」 「……アヤメが……私を……?」  直久は息を短く吐いた。肩の力が抜ける。 「そうだよ。だって、君たちは双子だろう。君がアヤメさんを心配するのと同じように、アヤメさんだって君の事をずっと心配していたに決まっているじゃないか」   よく似た姉妹なのだから。  顔かたちだけじゃない。お互いを思いやる、優しいところまで。 「戻ろう、アヤメちゃんのところに」  直久は柔らかく笑った。 「でも、私……アヤメにひどいことを……」 「分かってくれるよ……君の妹だろう?」  
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