10 寒椿

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 いたずらっ子のように直久が微笑みかけると、ツバキはつられて口はしを少しだけほころばせた。そして、視線を清次郎に移し、柔らかに微笑む。 「清次郎さま。行けないわ……妹を助けなくては」 「え? ツバキ!?」  一人わけが分かっていない清次郎は、きょとんとしたままツバキに手を引かれるように、屋敷の方へ二、三歩足を運んだ。  その時だった。 「早く、あそこから出してあげな─────」  ツバキの顔が瞬時に凍りつく。 「居たぞっーーっ!!」  直久の目にも、それははっきりと捉えられた。純白の雪の絨毯をぐちゃぐちゃに汚しながら、銃を持ってツバキと清次郎を取り囲もうとする村人たちの姿が。
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