10 寒椿

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  ◆◇  ツバキたちは、あっという間に村人に取り囲まれた。 「どこへ行く、アヤメ」  最初にツバキに声をかけたのは、父親だった。しかし、その顔は、今までツバキに一度も見せたことの無いほど、恐ろしく怒りに歪んでいた。 「大切に大切に育ててやったというのに、こんな男とどこへ行こうというのだ」 「お、お父様?」 「さあ、帰るぞ。お前のような、しょうもない娘は、遊廓にでも売り飛ばしてやる。そうすれば少しは金の足しにもなろうよ」  鬼のような形相の父に腕をつかまれ、ツバキは震え上がった。その父の手を清次郎が振り払う。 「あなたは、自分の娘をなんだと思っているんですか!!」 「黙れ小僧!! ぶっ殺してやるっ!!」  怒り狂った父が、清次郎を突き飛ばした。清次郎は雪の上に投げ倒される。その清次郎に向かって、父が銃を構えるのが目に入った。  全ての動きがツバキにはゆっくりに見えた。  撃たれる!!  清次郎さまが撃たれる!!  私に、外の世界を教えてくれた。外の世界に連れ出そうとしてくれた、大切な人が、殺されてしまうっ!!  
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