10 寒椿

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  (よかった、無事なのね。でも、泣かないで。私は、どこも痛くないわ。本当になんともない。大丈夫だから、そんな顔なさらないで)  そう伝えたいのに、口が動かない。  本当に自分は、どうしてしまったというのだろう。 「ツバキ……だと?」  そこへ、驚きに満ちた父親の声が聞こえてきた。目の前にいる娘が、白い着物を着ていることに、ようやく気がついたのだ。 「お前、ツバキを連れ出したのか!?」  父の声にあっという間に、満ちていく憎悪。吐き捨てられた、言葉。 「─────おのれーーっ!!」 (やめて、お父様!! 清次郎さまを殺さないでっ!!)  ────ズギュン ズギュン、ズギューン!!  銃声が再び聞こえ、ツバキの大好きな人の瞳が大きく見開かれた。  そう聞く間も無いくらいの、わずかの間をおいて、彼の体がぐらりと傾く。
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