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直久はただ呆然と男性が鬼の形相で清次郎に銃口を向けるのを見ていた。
胸が真っ赤にそまるツバキと、彼女を抱きかかえ、男性を睨みつける清次郎。その回りには、幾重もの人垣の中の一人でしかない直久。
いったい何がおきているのだろうか、と直久が思う前に、男性がその引き金を引いた。
ためらうことなく。
ひたすらに、清次郎を撃ち抜いた。
何発も、何発も。
まるで、全ての怒りをぶつけるように。
雪に呑まれるように倒れ込んでいく清次郎とツバキ。だが、誰一人として、父を止めようとするものはいなかった。ただ、じっと、清次郎の息絶えるのを見つめているだけだった。
(────……)
むごい。
むごすぎる。
これが、現実におきたことだとういうのか。
これが、人のすることなのか。
あまりに凄惨な状況を目の当たりにした直久は、呆然と立ち尽くことしかできなかったのだ。
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