10 寒椿

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  ◇◆  ツバキはその遠ざかる直久の背中をいつまでも見つめていたいと思った。  でも、もう瞼も重たい。     ねえ、アヤメ。  私はアヤメになりたかったわ。  私の妹。  私の光。  私ではない私。  私とはまるで違う少女。  ねえ、アヤメ。  今度もまた私はあなたの姉妹でありたいわ。  でも次はもっと色々な話をしましょう。  もっと、一緒に笑って。  もっと、一緒に泣いて。  もっと、もっと─────……  もう二度と動かないツバキの姿は、鮮血で真っ赤に染まり、まるで白銀の世界に浮かび上がる椿の花のようだった。 
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