10 寒椿

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  ◆◇  直久は、必死に駆けた。  涙で前が見えない。  体が怠く、重くなっていくのを感じた。  思うように走れない。  それでも、必死に、足を前に進ませた。    ────…………っ!  心なしか、辺りの景色がぼやけていくように思える。涙のせいばかりではないようだ。  扉が見えた。アヤメのいる部屋の、あの、生け贄にされる少女たちの部屋の扉が。  だが、その時、襲いかかるように白い光が直久を包んだ。    ────直久ーーっ!!    薄く開いた目に真っ先に飛び込んできたものは、青ざめたゆずるの顔だった。 「直ちゃんっ!! 僕のことわかるっ?」  
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