10 寒椿

66/67
前へ
/280ページ
次へ
 ゆっくりと部屋の奥に進んで、昨夜、直久が鉄挺で床板を外したその場所に跪いた。古く黒ずんでいるがとても頑丈な作りの扉がある。そっと扉に触れながら、きつく握り締めてきた鍵をぐっと持ち直した。  百五十年以上その役目を忘れて錆付いた鍵穴は、なかなかその主を受け入れようとしない。直久の気持ちばかりが逸る。  ──カチッ。  ようやく鍵が開く音が、廊下に響いた。  直久は一呼吸付いてから、扉をゆっくりと持ち上げた。 「……っ!!」  あれから、いったい、どれほどの月日が流れたのだろう?  彼女は、ずっと、ずっと、直久を待ち続けていた。  待っていたんだ。 「……ううっ」  はらはらと、直久の頬を涙が伝っていく。  持ち上げた扉の内側には、何度も何度も引っ掻いた痕があり、剥がれた爪が扉に刺さっていた。  至る所にある黒ずんだシミは血だろうか。  扉のすぐ下で、彼女は力尽きていた。 「……っ……アヤメさんっ……」
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6347人が本棚に入れています
本棚に追加