1 節操ないな

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「出るって!? ……いやいや、まさか。そんなわけないじゃん!!」  一瞬、体を跳ねらせ身を乗り出したものの、よくよく考えてみたら、昼ドラの破天荒すぎる展開や、数日前に返却された期末試験のこの世のすべてを真っ暗にする点数くらいあり得ない話で。――つまり、現実的に起こるはずがないことだった。  長椅子に深く座り直すと、ない、ない、と何度も繰り返して自分の顔の前で大きく片手を左右に振る少年は、ごく普通の高校一年生を毎日元気にやりこなしている自称イケメン――大伴直久(おおともなおひさ)である。  ところが、直久の前に腰掛けた恰幅の良い中年の男は、直久がどんだけ頑張って否定の言葉を連発しても、直久の方がくじけてしまいそうな神妙な表情を浮かべ続けている。 (やばい、これはマジな話なのかもしれない……)  ぞっと肌が泡立つような嫌な予感を覚えて直久は口を噤んだ。  背後で火が馳せる音が響く。今や、めったにお目にかかることのできない暖炉が明々と炎を灯し、古風なつくりの応接間を暖めていた。 「おそらく……その……」  男は視線を彷徨わせ、やけに言い躊躇っている。  直久としては、是非そのまま口を閉ざしていて貰いたかった。たぶん、これから男が言わんとする話は、日本各地に多く生息する一般男子高校生である直久のキャパシティを軽々超えてしまうに違いない話なのだ。  だが、人にはどうしても避けられぬことが時々ある。直久の場合は度々ある。まさに今も、いやよ、聞きたくないわ、と言って耳を塞いでいては、まったく話が進まないのだ!  しぶしぶというよりも、おそるおそるといった様子で、直久は男に話の続きを促した。 「お、おそらく?」 「生け贄にされた少女たちの幽霊ではないかと」 「ひえぇぇぇーっ! 生け贄、幽霊でたぁぁぁーーーっ!!」
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