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確かに、直久の想像をはるかに上回る恐怖と戦っているのかもしれない。けれど、こちらが手を差し伸べようとしても、向こうは迷惑そうに振り払うだけだ。これでは、何もできない。
(もともと、何かをしてやれる能力もないけどな)
直久は、深くため息をつく。
違う。この苛立ちはゆずるに向けるべきものではない。ちゃんと気がついている。
こんな時に何の力にもなれない自分と、必要とされていない自分に対する苛立ちで、行き場のない焦りと劣等感を再確認させられるのだ。
普段なら、知らん顔して笑っていられるのに。
この惨めな感情を、見てみぬふりをしていられるのに……。
返事のない直久の背中に、和久が静かに語りかけてくる。
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