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ここは、しんしんと雪降る山奥の、とあるペンション。オープンして間もないこのペンションで起こるという怪奇現象を解決して欲しいとの依頼を受けて、直久たちはやってきた。
――いや。正確に言えば、依頼を受けたのは直久ではなく、直久の弟と彼らの同い年のいとこだ。
驚くことなかれ。この二人、実は霊能力者なのである。
しかも、そんじょそこらの霊能力者とは格が違う。彼らの一族は、ほぼ全員が強い霊能力を持っている。
一族は、その血筋を絶やさぬように、薄くならぬように、一族間の婚姻が原則になっている。だから、一族は九堂家を筆頭に、多くの分家にいたるまで、ほぼ全員、なんらかの能力を持っている。
そう──ほぼ全員。直久以外の者たちは。
霊能力者ではなく“零”能力者な直久は、いとこと弟のおまけとして無理矢理ここ──ペンションについてきた手前、ミジンコのように肩身が狭い。常に直久に対して否定的なゆずるはともかく、常には絶対の味方である弟にまで邪険にされてしまえば、もはや空気に徹するしかなかった。
とはいえ、いくら直久が海のように広い心と、もはや麻痺しているのではないかと疑われるほどの鈍い神経の持ち主であっても、さすがにミジンコや空気は嫌だ。
それでもそれに甘んじながら、なぜ直久が二人について来たのか。それは今回の仕事先であるペンションの近くに温泉──しかも、絶景露天風呂があると聞いたからだ!
(まだ一秒だって温泉に浸かっていないっていうのに追い返されて堪るものかっ!!)
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