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わずかな希望を込めて腕の中のゆずるを見下ろすも、すでに正体をなくしているゆずるの姿に、無惨にもその希望は砕かれる。
(……気づくの遅すぎ、オレ……)
がっくりと肩を落としたその時。
(──!?)
直久の肌が、ぞわぞわっとざわめくように毛を逆立てていく。
まさか、と思った。
勢いよく、体ごと後ろを振り返った。目だけを動かし左右を確認する。再び、何かを感じ取り、右前方へ首をひねる。視覚から得られる異変はない。
だが、確かに──。
(――何かいるっ!)
はっきりと直久は感じ取った、何人ものヒトの気配。直久たちの背後から右に左に忙しく動き回って、まるで品定めでもしているようだ。
冷蔵庫のように冷えきった部屋だというのに、直久の頬を凍るほど冷たい汗がすーっと伝い降りていく。
(何人いるんだ……?)
ゆずるをしっかりとかかえ直すと、今度はゆっくり首をひねり、あたりを見回した。
だがいくら目をこらしても、何も見えるはずがない。霊力のない直久は、本能的に、見えない敵が発する殺意を感じ取ってるに過ぎないのだ。
(くっそう。どうしたらいいんだ!)
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