4 だめだ、消える

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「うっ……」  それまで反応のなかったゆずるが小さくうめいた。そのか細い声に導かれるように、直久はゆずるの足首を見る。すると、その足にいくつもの手が絡み付いているではないか! (なっ……)  直久はぎょっとして、目を見開いた。  その手は青白く、暗闇にはっきりと浮き上がって見える。  そう、見えるのだ。  直久にも、はっきり、見えるのだ。  弟から散々聞いてはいても、実際に見るのとでは全然違う。それは、確かに“ヒトの手”なのに、明らかに“人の手”ではない。  血の通う暖かさや、柔らかな弾力と程良い滑らかさの感触など、その手からは想像できない。実際にさわらなくてもわかる。  それに、異臭こそないが、朽ちた、というのが正しい表現だろう。ねちゃりと、粘つきそうな、ただれた皮膚からは、肉が腐り落ちて、所々骨が見えている。
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