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「はいはい。そこまで~」
緊迫する空気の中、二人の間に割ってはいる和久の声は、なんとも暢気なものだ。和久はさらに、にっこりと微笑みながら、持っていたフェイスタオルを直久とゆずるへ差し出した。
「ほら、早く顔を洗って。朝ごはん食べたら出かけるよ?」
「…………」
いつも思う。この和久の笑顔は、何よりも強い。最強だ。
「出かける?」
朝っぱらからどこへ? と思ったのは直久だけではなかったらしい。ゆずるも、不思議そうな顔で和久を見上げている。
「あ、そ、こ」
言い終わると和久は、にんまりと口端を上げ、一気にカーテンを引き開けた。
大きな窓が、いっぱいに日光を吸い込み、部屋中が生まれ変わったように明るくなる。
直久はまぶしさに目を細めた。
「あの山だよ」
和久は、窓の外を指差した。
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