5 うぜぇ……

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「女の声だった……」 「え?」  突然難しい顔をした直久に、和久がびっくりしたように聞き返してきた。 「聞いた気がしたんだよ、女の笑い声。それと、がりがり引っ掻くような音」  答えれば、和久の眉が寄る。 「笑い声は夜中、ゆずるが悪霊に襲われていた時に、必死で抵抗するオレらを見て、くすくす笑っている感じだった。引っ掻くような音は、物置部屋で。ああ、あと、三階でも声が聞こえたような気がする。……まあ、聞き間違えかも知れないけどさぁ」  実際、三階で聞こえた声は一瞬で、和久にも気のせいじゃないかって言われている。夜中の笑い声は、ゆずるを助けなくっちゃと必死で、わけわかんなくなっていた状態だったから、それも気のせいかもしれない。  でも、物置の音は確かに聞いたのだ。そういえば、あの時にも声が聞こえた。助けて、と。 「女の声……」  和久が考え込むようにあごに当てた右手を、何とはなしに直久は目で追った。  その表情から、自分の話を真剣に受け止めてくれているのが伺える。それがまず不思議だった。  能力のない自分が、意識を失う直前に、“いないはずの女の声を聞いた”と言ったのに。  きっと、ゆずるなら「寝言は寝て言え」と切り捨てるだろう。間違いなく、本家の長老たちなら、鼻で笑って終わりだろう。
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