1 節操ないな

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(ゆずるがオレやカズと似てるって? ないない。似てないし。――とは言っても、まあ、いとこだから、まるっきりの赤の他人よりかは近い顔をしているかもしれないし、アジア系の顔を見慣れていない欧米の外国人に大まかなジャンル分けをされたら、そりゃあ、同じような顔をしていますね、と言われてしまうかもしれないけどさ。でも、オレ、ゆずるみたいにあんなきっつい目してないもん)  直久は、間に和久を挟んで同じ長椅子に座るゆずるの横顔をこっそりと盗み見た。  白すぎてむしろ青白いとさえ思わせる、日焼け知らずの白玉肌に、小さな鼻と薄い唇。筆で書いたような形の良い眉は、双子たちの黒々としたそれとは違い、髪と同じ亜麻色だ。  ゆずるの亜麻色の髪は、生まれつきのもので、耳周りや襟足を長めに残してカットされている。デビューしたばかりで声変わりもしていない、まるで少女みたいな甘いマスクの少年アイドルのような髪型だ。  そして、サラサラな前髪から覗く茶色がかった瞳は、猫みたいに大きく、目尻がつり上っている。笑えばいいものを、無愛想なゆずるはめったに笑うことがないため、その目は――本人にそんなつもりはなくとも――常に怒っているような印象を周囲に与えていた。 「よしの、八重。お前たちは外に出ていなさい。この方たちの仕事の邪魔になる」  姉妹の父親であり、今回の依頼主であるペンションのオーナーが、和久と他愛もない話を続ける娘たちに視線を送る。姉妹は小さく肩を竦め、直久たちに向かってペコリと頭を下げると、静かに応接間を出て行った。  オーナーの顔つきが再び神妙なものとなる。これから、さらに詳しい依頼の説明があるのだろう。ならば──。 (ミジンコで空気なオレも退散するか)  すくっと長椅子から立ち上がり、直久も部屋を出て行こうとした。すかさず、背後から和久の声が追いかけてくる。 
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