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「あんだと、てめぇっ」
唸るようにすごむ直久を、見ようともせずにゆずるは直久の腕を振りはらう。
「……触るな」
足を止めずに、一言だけ残し、ゆずるは心配そうにこちらを見ているオーナーのもとへと向かっていった。今にも噛み付きそうな顔で、直久はそれを目で追う。
「なんだよ、ほんと嫌なヤツだよな。どう育てばああも性格がねじ曲がるんだよ。カンジ悪すぎる!」
「直ちゃん」
肩に弟の手が、ぽんと乗せられた。ぐるんと首をひねり、弟を見ると、弟は寂しそうな笑顔を返してきた。その物言いたげな表情に、直久の怒気がいっきに蒸発した。
(何かあるのか……?)
自分たちの一族が普通ではないことは、よく分かっている。いや、直久が思っている以上に‘普通’ではなかったことを、今、知った。だから、きっとあるのだ。直久が知らない本家の事情。ゆずるの心をここまで冷たく凍りつかせてしまった理由が……。
その理由を察して同情してやれと和久は言っているのだろうか。ゆずるの態度を許してやれ、と。
「直ちゃん、行こう」
和久は前方で心配そうにこちらを見守っているオーナーに、今行きます、と会釈する。
ほら、と言って和久が促すので、しぶしぶ直久はオーナーの方へと歩き出した。
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