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ペンションを出て三十分も経っていないだろうに、ずいぶんと森が深くなってきた。
直久の頭上の太陽光は、幾重にもなる葉のわずかな隙間をすりぬけ、地面に到達するしかない。夜になれば闇が全てを溶かしこみ、際限のない漆黒の世界が広がるだろう。
それに肌寒い。
獣道の両サイドに積まれた雪も深く、腰の高さまである。
しかし、最後に雪が降ったのが2日前だというのに、人がやっと一人通れるだけのスペースは道として確保してあった。
ご苦労なことに、オーナーは毎日この道を通り、この先にある祠にお供え物を届けているという。信仰心の現れというべきか、それとも強迫観念からというべきか。
その根底にあるのは畏れであり、恐れであろう。
直久には、体格の良いオーナーの広い背中に背負っているものを思うと、ひどく哀れに思えた。
彼のせいではない。
娘のせいでもない。
生まれた家を間違えたのだ──直久のように。
「あの先です」
オーナーが前方を指さした。
三人は無言でその指の先を追うと、二本の太い木が目に入った。その木と木を一本の縄がつないでいた。縄には、稲妻のような形をした白い紙が垂れ下がっている。神社でよく目にするものだ。だが、どちらも汚らしく黒ずみ、神聖なものというより、まがまがしさが先立つ。
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