an artificial arm

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「さて、それじゃ早速本題に入るが……神谷は、ジャック・ザ・リッパーって知ってるか?」 飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて、桐生刑事はそんな事を聞いてきた。 「は……?何ですか、いきなり?」 そんな名前の外国人が知り合いにいたか、と真剣に考える。 「……それは、切り裂きジャックの事ですか?」 茶菓子を持ってきた時臣君が俺の代わりに答える。 「ああ、そっちの方がメジャーな呼び方か?19世紀のロンドンで起こった連続猟奇殺人事件の犯人とされる人物の事だ」 桐生刑事は、出された煎餅の袋を破り答える。 いや、コーヒーに煎餅ってどういうセンスなんでしょう? 「……で、その切り裂きジャックが一体、どうしたんですか?」 出した方にも、それを問題なく受け取った方にも、センスを疑いつつも、話の本題を進める。 「まあ分かりやすく纏めると、そいつが現代に、しかも性質の悪い事にこの地区限定で舞い戻った、ってこと」 サラッと恐ろしい事を言った桐生刑事。 「嘘っ、じゃあ連日ニュースを騒がせていた連続猟奇殺人犯って、切り裂きジャックだったんですか!?」 もう反省時間は終了したのか、横から顔を覗かせて尋ねる結衣。 耳元で大声を出すな、迂闊にも少しビックリしたではないか。 「まあ、模倣犯って奴だな。マスコミには極秘だが、わざわざ犯行声明まで送ってきた。私はジャック・ザ・リッパーです、とな」 国家機関の内部情報を、あっさりと他人にばらしてしまうエリート刑事。 「はぁ……危なかった。昨日は深夜に一人で帰ったんですけど、何とか無事でした……」 心から安堵の表情を浮かべる結衣。 なるほど。ここ最近、帰りが遅くなったら送ってくれ、って駄々こねてたのはそういう事だったのか。 「こちらとしても、ようやくこの地区にいる事を特定して、警報を今日出すつもりだったからな」 無事で良かった、と再びコーヒーを啜る桐生刑事。 「と、いう訳なんだが」 「……何が、という訳なんですか?」 まあ、話の途中で薄々感づいてはいたが、恐る恐る尋ねてみる。 桐生刑事は、コーヒーを一気に飲み干し、カップをテーブルに置き、 「勿論依頼だ。切り裂きジャックを捕まえてほしい」 非常に落ち着いた口調で、国家機関からの遣いは無理難題を出すのであった。
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