an artificial arm

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こうして、騒がしい朝となったが、やっと我が事務所の就業時間が始まりである。 雨の音混じりに、キーボードを打ち込む音が聞こえてくる。 やっぱ、働くってのはこういう状況を差すよね。 絶対に、さっきの感じではないよね。 「…………」 無言で真面目に事務作業に取り組むのは、勿論先程の青年。 名は常磐時臣(トキワ トキオミ)。 19歳の社会人である。 真面目を体現したこの青年は、メンバーでは一番年下ではあるが、一番の働き者。 彼がいなかったら、どれほどこの空間はカオスな事になっていただろうかとしみじみ思う。 その感謝の意を、給料で示してあげたいところなのだが。 生憎、事務所の経済状況では、悲しい事だが、一般企業にすら遠く及ばないのが現実だった。 ちなみに、彼の就業理由はこの事務所の雰囲気が気に入って、とか何とか。 ある意味彼も、変わり者の部類に属するのかもしれない。 現在、彼女はいないらしい。 欲しいとも思わない、だとか。 顔立ちは整っているのに、全くもって勿体ない。 もっと青春は謳歌しなくちゃ。 「どうしましたか、所長?」 件の時臣君が尋ねる。 「ん?ああ、悪い悪い、何でもないよ」 無意識に視線を彼の方に向けていたらしい。 「はぁ、そうですか」 時臣君は、再び作業に戻る。 おお、ブラインドタッチ。 本当に優秀な部下である。
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