14人が本棚に入れています
本棚に追加
「結衣先輩駄目ですよ、そんな口を聞いては。一応……所長は上司なんですから」
「一応、は余計だよね時臣君?後、その間は何だ?」
「だって、本当に仕事無いじゃない。時臣君はいつも暇なのに何してるの?」
「だからって、暇=ゲームOK、の方程式は成り立たないだろ、結衣?」
「まあ、確かに暇ですが。仕事は自分で見つけるものですよ?僕は今、事務所のサイトの運営をしています」
パソコンの画面を見せる。
なるほど。俺の抗議は全てスルーする方向ですか。
「…………」
半ばふてくされつつ俺も、彼が作ったサイトのページに入る。
確かに、俺では到底作成不可能な立派な事務所説明のサイトが立っていた。
「……ん?」
ふと、画面に疑問を発見する。
「なあ、時臣君?」
「なんですか、所長?」
「ここの所長コメントの欄だが……書いた記憶が無いぞ?」
「あれ、私たち、マンション経営の相談なんか、受けたことあったっけ?」
虚偽の事象に、俺達は疑問符を浮かべ尋ねる。
優秀社員君は、軽く笑みを浮かべると、
「勿論、僕が勝手に作りました。会社説明としては、中々のものになったと自負していますが」
当然のように、詐称歴を告白するのだった。
「……なかなかやるね」
思わず唸る結衣。
「ええ。相談の件も、ちょっと調べれば僕が対応できると思うので大丈夫です」
自身満々に答える時臣君。
思わず、眼鏡の光る音が聞こえてくる程だった。
「…………」
複雑な感情が入り混じり、何も言い返せない。
微妙な空気のまま、再び自分の作業に戻る。
「あ、所長のプロフィール欄はわざと空けておきましたので、そこはよろしくお願いします」
更にご丁寧に仕事も与えてくれる、本当に優秀な時臣君。
「了解。これ終わったら、仕事取りに行って来ますかな」
半ばやけっぱちの口調で呟く。
ああ悲しきかな、で一句出来そうだ。
教えてもらったパスを入力し、サイトの管理ページに入る。
こうして俺は、今日初めての仕事に取りかかった。
最初のコメントを投稿しよう!