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「……ん?」
ふと、妙な人物を見かけ、俺は思わず足を止めた。
雨にも関わらず、傘も差さないでゆっくりと歩を進める人物が俺の視界に入ってくる。
この蒸し暑い中、どこぞの怪しい宗教団体かと言わんばかりの真っ白な衣装を着た人が、ユラリユラリとこちらに向かってくる。
都市伝説としては十分なレベルでは無いだろうか。
「……こんにちは」
「な」
そして気が付けば、最悪人かどうかもよく分からない存在が、突然声をかけてきた。
「あ、ども……」
条件反射で俺も挨拶を返してしまう。
こうて近くで見ると、やはりれっきとした人間のようではあった。
不気味である事に変わりは無いが。
「それは……」
黒髪と雨で奴の顔はよく見えなかったが、白装束は俺を何故かじっと――特に左腕を見つめていた。
気味が悪いので今すぐにでも逃げ出したいのだが、何か呪いをかけられそうな気がするのでその場に立ち尽くしている。
と、ここで突如、クラクションの音が鳴り響いた。
音のする方向を見ると、道路の向こう側から一台の車が向かってくるのが見えた。
いかんせん雨が強いので、遠くからはボヤけてよく分からないが、見覚えのある車である事が伺える。
「同じ……か」
白装束の呟きが聞こえる。
俺はもう一度、その姿を確認しようと振り返る。だが――
「……え?」
もう、白装束の姿はそこには無かったのだった。
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