アンチテーゼと携帯小説

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 そうした慣習の中にあるケータイ小説という存在に、異論を唱える人達がいる。そんな話は個人的にはどうだっていい事ではあるのだが、らしくない話に耳を傾ける傾向は、らしくない話にこそ何かしらの真実を見いだそうとする現代人の多くが、そうしたケータイ小説という虚空の存在の出来事のあらすじに夢を描く物なのだろう。そこにあるのは未だかつてたどり着いた事もない世界や、描く事など有り得ない情景などなく、ただただ広がる虚空に響く事象だけの羅列でしかないのだが。  私は既に冷め始めたコーヒーを啜り、残り僅かになった黒茶色の液体に踊る光の輪に目を落とす。冷めきっているとはいえ、未だ香ばしく鼻を擽る豆の豊さに私は静かに感心した。モダンジャズの流れる店内の明かりは薄暗く演出され、至る所に灯される蝋燭の明かりが、木目調の内装をより鮮やかに、より優しく照らし出している。  思えばこんな店ですら、雰囲気の良い喫茶店で済ませてしまえる無感性こそが問題なのかもしれない。美しい物を美しいと感じる事が出来ない、悲しい事を悲しいと感じる事の出来ない人間なら、それはもはや人間ではなく、むしろロボットのような物だ。ロボット同士が共感しあう共有空間の一つが、ネットに現れ万人には影響しえないケータイ小説という存在としてあるからこそ、異論を唱えるのだろう。しかし、人間でありながらロボットの感覚に馴染める筈はない。
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