アンチテーゼと携帯小説

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 複雑に絡み合う思考に、コーヒーのしゃがれた香りが更に絡みつく。どうでもいい事に程、余計に気を回してしまうのは悪い癖だった。ただ、今はこうした気分の良い店で、その空気に自分を癒やしていたいだけなのだ。  まどろみの時間はどこまでも変わらないように感じながら、最後の一口を味わった。思考という名の幻想的な時間は、人類に与えられた最高の玩具だ、などと皮肉めいた締め括りを脳に与え、私は物静かに小さなカウンターで佇む店員に会計を頼んだ。  「ご馳走さま」  柔らかな笑顔で見送る初老の店長らしき人に声を掛け、私は銃撃が響く戦場へと再び舞い戻る。ホログラムが描く僅かな安らぎの時間は絶たれた。そこに広がるのは先程までの豊かな温もりの世界では無い。  殺すか殺されるか、右手に握られたM16A1アサルトライフルの感触を確かめながら、セーフティーをカチリと解除する。やがて解き放つであろう内なる獣をその身に感じ、私は瓦礫に埋もれた街並みへと姿を消すのだった。
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