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「解らない……いつの間にか……俺はここに居たんだ……だから、何故俺は生き何故俺がここに存在するのか……まして俺が住む家など知りもしない」
篠理はフードの中を覗こうにも目深に被っているため全く顔が見えない。
それでも、男の声は切なく悲しかった……
「赤いお兄ちゃん……」
篠理は気遣わしげに青年を見つめていれば何やら真剣な面持ちで懸命に考え始めた。
「……決めた!! 赤いお兄ちゃんはサキだよ!」
暫く考えていたと思えば、篠理は閃いたように満面の笑みを浮かべて青年にそう言った。
急な事に青年はキョトンとしているのか、暫く何も返事を返さず黙り込んでいたのだ。
「……さき……?」
「サキ!! 赤いお兄ちゃんの名前!」
「……サキ……」
青年は小さな声で、篠理が言った言葉をポツリと復唱したのだ。
「うん♪……これでお兄ちゃんに名前が出来たよ?……だから寂しそうにしないで……?」
篠理はニコリと笑えば優しげな微笑を浮かべながらも青年、サキを心配するように見つめていった
「……」
サキはそんな篠理の表情を見入るように見つめていれば、微かに感じる懐かしさに似た感情が沸き上がってきたのに気づいた。
何故この見ず知らずの少女に懐かしい温かい気持ちを感じてしまうのか……今のサキには理解出来なかったのだ。
否定の言葉を返さないサキの様子に了承と受け取ったのかニコリと笑って言った。
「私の名前はね、篠理って言うの! 篠理・ファイバー!」
「篠理……」
サキは篠理の名を確かめるように一人でポツリと呟いていた。すると、学校の鐘がカーンコーンと鳴り響いてきたのだ。
周りの生徒達が授業を受けるため慌てて走って帰っている様子を見れば篠理も焦り始めたのだった。
「私行かなきゃっ! サキお兄ちゃん! 待っててね! 授業全部終わったらまた来るからっ」
篠理も慌てて足をパタパタとして駆け足するとサキにそう言いつつ一旦その場を後にした……
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