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トン……トン……
夕方……タクミは娘のために、手料理を作っていた。
コトコトと楽しげな音が鳴るお鍋はまるで合唱をしているようだ。
タクミは一人楽しげに鼻歌混じりで包丁で野菜を切っていた……すると
「ただいまぁ!!」
と、元気の良い声が響いてきた……篠理が帰ってきたのだ。
「篠理、おか……」
"おかえり"タクミはそう言おうと振り返った。
しかし、それは途中で言葉が止まってしまったのだ。
何故かと言うと……銀髪の篠理の隣りでいかにも怪しい黒いコートを着た青年が立っていたからだ。
フードで隠されているのだが、中からは隠しきれない赤々とした髪が肩付近まで覗いている。
更に全身黒ずくめのコート姿というのが、いかにも怪しさを醸し出していた。
20ぐらいに見えるが結構肩は華奢らしくまだ少年らしさが何処となく残っている。
そんな青年をタクミは警戒していた……篠理はまだ年端のいかない子供なのだから、理由は解らないが、この青年がいたいけな少女を騙して、家まで着れてきたのかもしれない……そして、今この少女に危害を加えるんじゃないかと、不安を拭いされなかった。
「篠理……こっちに来なさい……」
片手に包丁を持ちつつもう片手で相手を刺激しないように篠理の方へ手招きをする。
「パパ? どうしたの?」
無垢な顔で不思議そうに父に問い掛ける篠理……しかし、タクミは青年の隣りに篠理が居る限り答える余裕はなかった。
だから、今度は少しきつく篠理に言ったのだ。
「良いからッ来なさい……!」
流石に篠理は何かを感じたのかビクリと肩が揺れて、ソロッとタクミの元へと歩いていったのだ。
青年はというとフードを被ったまま、二人の様子を黙って見届けていた。
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