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がらっ
教室の引き戸を開けるとみんなが一斉に俺を見る。明らかに嫌そうな目や、媚びが張り付いた目、羨望の目。
反吐が出そうだ。
「来たか。俺の授業だけ受けにきたんだな。よーしお前の気持ちはよく分かった
お前、放課後残っとけ。溜まってる課題やっから」
水瀬のだるそうな声。
「あいあい」
俺は席につきながら微笑を返す。
水瀬は好きだ。
他の教師と違って俺の中に無理やり立ち入ろうとしない。
それに何より、俺が抱えている'闇'を水瀬も持ってるように感じるから。
「たつき~ん♪寂しかったよ僕は~!」
「うっせ」
「あんたやばいくらい課題溜まってるよ」
「俺がやったらすぐ終わるよ」
座るとすぐに小声で話しかけてくる親友達。
友だちというのはこいつらだけで十分だと思える。空気のような存在だ。傍にいて当たり前。けれどなくてはならない存在…
「いいからお前ら前向けよ」
俺は軽く來斗と都に手を振った。
二人はそこまで話すこともないのか素直に前を向いた。
俺の目線は自然に斜め前の女に注がれる。
莉遊にそっくりだった。俺の、妹だった人に。
京はたつきの視線には気づかず、一生懸命黒板の字をノートに写していた。
さらっと俯いたときに髪が肩から落ちた。
無意識に京は髪をかきあげる。
どき
その横顔があの人と重なる。
違うのに。
そうだ。そもそも俺は妹なんかそういう目で見たことなんか一度も…
何で'そういう目'って考えた?
俺は…
たつきは机に肘をついて広げたノートに視線を落とした。
ぎゅっ
と目を瞑る。
そんなたつきを水瀬は横目で一瞬捉えた。
表情を変えずに黒板を向く。
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