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鬱蒼とした獣道を歩く
記憶のみを頼りに、といっても俺は正直道なんて覚えてないので茜任せなのだが、大体五分位歩いただろうか
「…やっぱりね」
「この木か…」
緑に囲まれた山の中
一本だけ毛色の違う木
ひらりと花びらが舞い落ちる、立派な桜の木だった
「なんか、普通じゃ考えられないよね?」
「まぁ何事にも例外はあるさ」
荷物を下ろし、木に寄りかかる
と、茜は俺の反対側に寄りかかった
「こんな感じで、私が泣いてるのを琉が見付けて…懐かしいなぁ」
「確かに、あの頃の茜は純粋だったよなぁ…」
「…なんでそういう話になるのかなぁ?」
「ごめんなさい、今の無しで…」
作戦:いのちだいじに
「…じゃあさ、琉は今の私と最初の私とどっちが好き?」
そう言い、反対にいた茜が隣に座る
今の茜と昔の茜か…
「どっちも」
「あ、それズル~」
いや、ズルと言われても…
「む~…」
「いやだって…お前は最初からあんまり変わってないぞ?」
「え?そう?」
「ああ、根っこの部分はだけどな」
思うに、最初から茜はこんな奴だったのだ
俺が昔言った言葉が変えたのは茜の表面だけ
茜は、最初からずっと俺を引っ張り回してる『茜』なんだと思う
「だから、そんなん聞かれても無理なんだって」
「なるほど、琉は私に一目惚れだったんだね~」
「何をどう解釈したらそうなるか教えてくれ…」
「や~だよ!お弁当食べよ?」
「ああ、なんか釈然としないなぁ…」
春にはもう遅く、夏にはまだ早い季節
相変わらずの毎日を過ごしている
変わる季節と変わらない日常
変わらない俺の隣
この平和な日々に終りなどないと信じ、願いを込めて空を見上げる
これから先も、この可愛い問題児の笑顔が見られますように…
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