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漆黒の空には、煌々と月が輝いている。
青く澄んだ月光は、周りをぼんやりと照らし出している。
しかし、何故かその光は彼女を慰めることはなく、逆に不安をかき立てていた。
「はぁ……」
何度目か分からない、ため息。
彼女の頭を悩ませるのは、唯一支えてくれるはずの大切な夫。
夫婦であっても話せぬ秘密があると言うのだろうか。
答えの出ない考え事と、真意の見えない隠し事は、否応なしに妻である彼女を責め立てる。
「はぁ……」
口から漏れるため息が、夜風に吹かれて空に溶ける。
足元の玉砂利が、歩く度に鳴るのも気にせず、彼女や庭の中央へと足を運ぶ。
ふらふらと引き寄せられるように腰掛けたのは、古井戸。
月の明かりが眩しく、上を向いていたくない。
涙を隠し、井戸を覗き込んだ途端、
「……!」
彼女は息を呑んだ。
自らの影でもなく、月の明かりでもないそれ。
「キャアァァァァァッ!?」
絶叫が彼女以外誰もいない中庭に響き渡る。
井戸中の壁には、彼女を嘲笑うかのような笑みを湛え
青白い女の顔がぼんやりと映っていた。
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