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男は道を歩きながら、ちらちらと後に続く『それ』を観察していた。
身なりの良い子供だ。
男か女かよく分からない顔立ちをしているが、直衣を着ているから男なのだろう。
手に風呂敷を抱えて歩く様はしっかりしており、不可思議な雰囲気を纏っている。
「……して、お屋敷はここから遠いのですか?」
視線に気がついたのか、子供は軽く男を見上げ、丁寧な口調で尋ねてきた。
「ああ」
男は視線を前方に戻し、ぶっきらぼうに返す。
まだ街道にも入ってないような場所だ、目的地まではまだ少し距離がある。
子供はそうですか、と短く返し、また沈黙が降りる。
人気のない道を会話もなく、身なりの良い子供を連れてあるく男。
明らかに怪しい。
男はなんとか会話を続けようと、適当な話題を探し始めた。
「そういえば、お前の名前は?」
「!!」
当たり障りのない話題を振ったつもりが、子供の足を止めさせてしまった。
何かまずいところでもあっただろうか。
男の焦りをよそに、子供はしばらく何かを考えるように目を泳がせ、ゆっくりと口を開く。
「では、蘇芳とおよびください」
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