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その思わせぶりな態度とオチに、男はガクリと肩を落とした。
所詮は子供、といったところだろうか。
人の気を引くのは上手いが、その中身は薄い。
蘇芳と名乗った子供は、その反応に不愉快そうに口元を下げ、男を見上げる。
「僕も曲がりなりにも陰陽師なので、本名を名乗るべきか考えなければならなりません。
別にあなたをからかった訳ではありません」
その厳しい口調に、男は慌てて姿勢を正した。
危うく忘れるところだった。
彼を呼んだ理由はそこにあるというのに。
蘇芳は少し機嫌悪そうに眉尻を上げて、口を噤んだ。
『陰陽師』
元は公家社会で呪い全般を行っていたそうだが、それが衰退した今日では別の役割も担っている。
物の怪怨霊なんでもござれの退魔師である。
もちろん法師も同じような役割を担っているが、今回は近くに拠点を構えていた彼の家に依頼をしたのだ。
「……貴方の名前は?」
「正次だが……」
「では正次、お屋敷に着くまでに大方の経緯(いきさつ)を教えていただきませんか?」
とんと正次より一歩前に出、整った顔に笑みを浮かべる。
「まだ距離があるのでしょう?」
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